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1976(昭和51)年度
 
 この年の春は、作・一柳 俊邦「立春譜」を上演した。川越地区の研究会を兼ねて、作者の一柳 俊邦先生を講師にお招きして、講評をしていただいた。

 一柳先生は、県の顧問作家の第一人者で、全国大会でも自作で優勝したり、創作脚本の作品集も出版しているような、当時の高校演劇界で全国に名を馳せた有名顧問であった。一柳先生の作品は、戦後の新劇の流れを汲む格調高いリアリズム演劇であって、一方私は、唐 十郎の状況劇場の紅テントにかぶれていたアングラ志向であったから、演劇観では主義主張の異なる方ではあった。が、一柳先生は、近頃、連盟に入ったばかりの、若手の小生意気な地方顧問の私にも、よく声をかけて下さる連盟の頼れる大先輩であった。私が肌合いの違う一柳作品を取り上げたのは、ここは一つ、一柳先生の作品を演出して、連盟の重鎮の先生にほめてもらおうくらいの山っ気だったのだと思う。

 「立春譜」という作品は、高校の用務員室を舞台にして、悩む高校生と親身に心配する担任教師と戦争の傷を抱えた用務員の小母さんの3人が絡む、しみじみとした情感のいい芝居だったが、私の大ざっぱな演出ではとても手に負えるタイプの芝居ではなかった。一柳先生の講評は、私の気付き得ないリアリズム的細部の批評に及び、私の目論見に反して、またも、私の演出は粉砕された。前年秋の創作台本の失敗に続いて、秋・春連続で、私の芝居創りは、一敗地にまみれたのである。

 

作・一柳 俊邦「立春譜」 <STAFF>演出:藤田久美子    <CAST>原 のぶ:亀田美智子
                             松本 陽子            秋庭百合:伊得美智江
                                                砂川まき:梶田 美香


                   作・三原昇三「おこりんぼう」

 前年秋の創作台本の失敗と、春のリアリズム演出の失敗と、この頃の私は、演劇部の顧問として落ち込んでいた。それに2年生:5名・1年生:2名の女子ばかり7名の部員の少なさにもやる気を失っていた。本校のように全校生徒480名定員の小規模学校では、部員が10名を超えることは稀で、その後も、常に10名足らずの少数部員でやるしかなかったのだが、その頃の私は、まだ少数精鋭を鍛えるという覚悟ができていなかったから、素朴で素直な大人しい女の子が5,6人いるだけの弱小演劇部では、大したことはできないと後ろ向きになっていたことは否めない。

 すっかりやる気を失っている顧問にもかかわらず、部員達は5,6人の少人数で健気に活動していた。部員達は、自分達で作・三原昇三「おこりんぼう」という台本を探してきて稽古を始めた。可愛いだけの小品で、とてもコンクールに勝てる作品ではなかったが、部員達は健気に稽古をして地区大会の舞台を踏んだ。「おこりんぼう」の文化祭パンフレットの<あとがき>には、リーダーのヨーコの手書きによる顧問暗殺計画が載っている。そのくらい、部員達は、やる気を失った顧問にアタマに来ていたのだろう。



   作・三原 昇三「おこりんぼう」
 <STAFF>演出:松本 陽子・亀田美智子          <CAST> ようちゃん:松本 陽子
          舞台監督:かじた美香                       ミカ:かじた美香
          照明:藤田久美子                          ふさこ:亀田美智子
          効果:内野 新治                           かほりさん:畑口 初江
                                               ユミ:関根 大子



<部員名簿>
  2年:松本 陽子(リーダー)
      梶田 美香
      亀田美智子
      藤田久美子
      内野 新治

  1年:畑口 初江
      関根 大子












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