1978(昭和53)年度
この年から、本校は、親大学の筑波移転に伴い、東京教育大学附属坂戸高等学校から筑波大学附属坂戸高等学校に校名が変わった。
この年の春には、作・しまがた なおみ「紅い実を食べない紅い鳥」という30分ほどの小品を上演した。
<CAST> 真知子 田口 澄恵 |
前の年に、県坂がいきなり全国大会にまで出場したことは、私にとってはショックだった。すでに川越地区高校演劇の若きリーダーの地位を固めつつあった私としては、いつまでも「地区大会に勝って、県大会に出場する」ことだけが目標ではプライドが許さなかった。県大会で勝負できる作品を作らねばならない。しかし、部員は、相変わらず、素直で可愛い女子が10名程度のノンビリ部活であった。 高校演劇コンクールには、出演者が現役高校生であることと共に上演時間が60分以内という厳然とした条件がある。そこで、プロ劇団が上演する既製台本では条件に合うものが少なく、勢い、創作脚本が高校演劇の主流になるのだが、創作脚本で失敗している私としては、無理は承知で既製脚本をアレンジするしかない。 私が、この年にコンクールに勝負をかけて持ち出したのは、作・アヌイ(訳・芥川比呂志)「アンチゴーヌ」であった。この作品は、ギリシャ悲劇の名作「アンチゴーヌ」(ソフォクレス作)を下敷きにして、フランスの現代劇作家アヌイが1942年に書いたものである。当時フランスは、ナチスドイツの占領下にあり、死を懸けたアンチゴーヌの抵抗の姿は、空襲警報にしばしば中断されるという初演の舞台でありながら、レジスタンスの苦しい戦いをしていた多くのフランス人に深い感銘を与えたといわれる。日本では、当時新興の劇団四季が上演している。私が学生時代にもっとも感銘を受けた作品の一つである。 原作は、王女アンチゴーヌと叔父の王クレオンの対決を軸に、アンチゴーヌの恋人エモン、アンチゴーヌを逮捕する衛兵たちなど、主人公アンチゴーヌにからむ主要な登場人物はすべて男である。これをすべて女の役に書き換えた。原作は、アンチゴーヌとクレオンの対決をクライマックスにして、その伏線として恋人エモンとの甘く切ないシーンがあり、また、ひょうきんな衛兵との笑いを誘う会話があり、まさに緩急の作劇法が美しい台詞と共にこのドラマを感動的なものにしている。しかるに、男役をすべてカットしてしまえば、クライマックスばかりが残って息抜きができない。二時間を超える大作を、58分にまとめた私の脚色は、コンクールの審査員に高く評価されたとはいえ、無謀な挑戦であったことは否めない。 |
語り役(マリコ)から始まる幕開きのシーン。全登場人物が語りで紹介されていく。
<CAST> アンチゴーヌ 畑口 初江 ユーリディス 田口 澄恵 イスメーヌ 野口 宣代 乳母 山崎 慶子 大臣 渡辺ひとみ 語り役 鈴木まり子 |
<STAFF> 舞台監督 増村 知子 装置 甲田 寿 金井 秀之 照明 塩沢 幸恵 斎藤貴代美 効果 塩沢 幸恵 メーク 斎藤貴代美 |
アヌイの初演も、戦時中だったせいだけでなく、現代の抵抗劇として、衣裳や道具も古代ギリシャをリアリズムで表すのではなく、現代風で演じたという。 アンチゴーヌを演じたハツエは、演劇部には珍しい真面目で真摯な硬派の高校生であった。気の遠くなるような長台詞と格闘して、明晰な口舌の台詞をものにし、ひたむきに自己の信念を主張するアンチゴーヌの純真さはよく表現していた。女王ユーリディス(本来は、王クレオン)を演じたスミエは、やんちゃな負けず嫌いの可愛い高校生で、惜しむらくは滑舌が悪く、台詞には難があったものの、堂々たる押し出しで、りりしい女王をよく演じた。二人とも、本来高校生には無理な長台詞の台詞劇を、よく稽古して一応の形にはした。 アヌイを高校演劇でやるというだけで、度肝を抜くことだったので、地区大会は文句なく通ったが、県大会では、さすがにアヌイを高校生にやらせる無謀さだけが評判になってしまった。「難解な政治劇に果敢に取り組んだ勇気は十分賞賛に値する。しかし、率直に言って、言葉の荘重さを観客に伝えるには今ひとつ力不足であった」と埼玉新聞の劇評子は述べている。しかし、「アンチゴーヌ」を高校演劇に持ち込んだ無謀さで、筑波大坂戸高の名は、一気に全県の高校演劇関係者に知れ渡ることになった。舞台の成否は別にして、私の劇部史でも忘れられない画期的な作品である。 |
この年でもう一つ画期的だったことは、大教室の舞台を固定化したことである。それまで、可動式の二重を並べた舞台だったが、ガタガタと音がして困っていた。この年、やっと固定舞台の工事ができた。 |
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<部員名簿>
3年 畑口 初江(リーダー) 田口 澄恵(サブリーダー)
2年 野口 宣代
1年 鈴木まり子 山崎 慶子 渡辺ひとみ 増村 知子
斎藤貴代美 塩沢 幸恵 甲田 寿 金井 秀之