1979(昭和54)年度
春の公演は、作・原 博「旋律の終わりに」を上演した。市販の高校演劇台本集に載っていた小品である。春の公演は、顧問は手抜きして、部員達だけで作らせるので、どんな話だったかおぼえていない。
<CAST> ノッコ:野口宣代 ターボー:甲田 寿 M:金井秀之
親分:斎藤貴代美 子分A:増村知子 子分B:塩沢幸恵
<STAFF> 演出:鈴木まり子 舞台監督:山崎慶子
照明:山村聡子・杉田洋子 効果:佐々木美枝
メーク:渡辺ひとみ
<声の出演> 矢島妙智郎・高荷貞夫・渡辺ひとみ・鈴木まり子
甲田は、アイドル目指してオーディションを受けると言っていたが、どうなったろう? | 金井は、仕事、頑張っているらしい。 |
モコちゃんは、新潟でスゴイらしい。 | この芝居でキヨミがデビュー!それまで目立たないスタッフしていたコが、気っぷのいい姉御肌の演技でスターになる。 |
しだいに名門演劇部の形ができてきて、上演後の観客との合評会も様になってきた。 | 顧問36歳、部員も充実してきて、意欲満々である。 |
3年生は、ノノッチャン一人になってしまったが、2年生がマリコ・ターコ・キヨミ・モコチャン・ヒトミ・サッチ・カナイと7人も個性的な部員がそろって、その上、1年生にもミエ・トコとその後の劇部史に名を残す実力派部員が入って、やっと演劇部らしくなってきた。昨年度のコンクール作品「アンチゴーヌ」は、県高校演劇に衝撃を与えたが、難しすぎて、高校生の手に負えなかった感は否めない。今年は、部員も充実しているので、部員の個性が生かせるオモシロイ芝居をやろうと思った。
市販の高校演劇台本集に載っていた 作・雑賀 聖「再会屋」 という作品をコンクールに選んだ。一言で言うと、大衆演劇のジャンルである。歌謡ショーの開かれている地方劇場の楽屋にいわくありげな中年女と女子高生が訪ねてくる。「この子が、あんたが生んで捨てた子だよ」。「えっ、あたし、今大事な時なの。捨てた子がいるなんて書かれたらスキャンダルだわ。これ少ないけど持って帰って!」。後ろ暗い過去を持つ大スターの弱みにつけ込んで金銭を巻き上げる実は親子の詐欺師の話。
<CAST> ハツ:鈴木まり子 サキ:佐々木美枝 朝倉奈保美:斎藤貴代美
沖りえ子:渡辺ひとみ 羽田かおる:山崎慶子
<STAFF> 演出:野口宣代 助演出:塩沢幸恵 舞台監督:増村知子
装置:金井秀之 照明:山村聡子
<協力> シアター・ジャック
装置指導:木村浩一郎・尾崎 真・小峯和浩
照明・効果指導:乳原一美
詐欺を仕掛けるしたたかな中年女をマリコが好演し、詐欺の道具にされる娘の揺れ動く乙女心をミエが高校生離れした演技力で熱演した。 | 歌って踊れて芝居のできるキヨミは、後ろ暗い過去を持つ大スターにぴったりだった。 |
甘ったれの舌足らずの滑舌の悪さが難点のヒトミも、美貌と押し出しの良さで大スターの雰囲気を醸し出していた。 | 超マニアックなヅカファンのターコは、達者な演技で落ち目の演歌歌手を好演した。 |
金だけ巻き上げて帰りたかったハツは、狂った羽田に誤って刺されてしまう。 | 軽妙に進んだ楽屋詐欺は、暗いラストを迎える。 |
本校の女子生徒は、この頃、家政科・生活科という職業学科だったから、裁縫はお手の物だった。この芝居でキヨミやヒトミが自分の衣裳をカラフルに手作りしたのがその後の「衣裳の国坂」の伝統を作るきっかけになった。
これだけ個性的で達者な演技陣を集めれば、3年連続4回目の中央大会出場は堅かったが、この年も中央大会では入賞にはひっかからなかった。
<「埼玉新聞」の劇評より抜粋>
よく工夫された舞台装置の中で、伸び伸びとそれぞれの役を演じた。役の年齢、心理になりきった演技力は鮮やかだった。特に15歳のサキの好演は特筆に値しよう。だが、劇を見終わって後味の悪さがどうしても残る。というのは原作が、ところどころ面白い台詞をはさんで、才知を垣間見せながらも、題材が歌手のスキャンダルという、観客の想像力では異常でないものを劇化したからにほかならない。原作者の志の低さが劇を下品なものにしてしまった。
「原作者の志の低さ」というところは、「顧問の志の低さ」と読み替えてもいい。前年度に「アンチゴーヌ」を高校演劇に持ち込んだ「筑波大坂戸高の志の高さ」はどこへ行ったのかという期待はずれ感はひしひしと感じられた。県大会の審査員もどんなに芝居が達者で面白くても、こういう通俗な大衆演劇に高校演劇の賞はあげられなかったろう。賞はもらえなかったが、芝居としては面白かった。さらに、筑波大坂戸高の高校生離れしたカラフルな演技力を県下に示した意味で、この芝居も上昇国坂劇部の記念碑的な作品として記憶されるのである。
この年に、アマチュア劇団「シアター・ジャック」を結成した。2年前に「日日」で全国大会に行った県立坂戸高演劇部の中心メンバーが高校を卒業して、大学生や専門学校生になった。川越地区大会を仕切る私は、彼らを地区のOBとして、地区大会のSTAFFに登用した。自然と筑坂の大教室を拠点として、私の周りに地区OBのサロンができていった。こういう形で高校演劇の地区OBが劇団を結成する例は浦和や所沢ですでにあった。私が代表になって、劇団「シアター・ジャック」が、この頃私たちをもっとも捉えていた つかこうへい の代表作「熱海殺人事件」をもって旗揚げした。
もう一つ、この年で忘れられないのは、前年夏に固定化された大教室の舞台を、この年の夏に黒ペンキで塗り上げたことである。シアター・ジャックのメンバーを使って、大教室の壁から天井まで、一面に黒ペンキで塗り上げた。それから、黒のバック幕も可動式で手作りした。これで、筑坂大教室は、当時の東京の小劇場にも負けない雰囲気を作り上げたのである。
<部員名簿> 3年:野口宣代(リーダー)
2年:鈴木まり子(サブ・リーダー) 山崎慶子 渡辺ひとみ
増村 知子 斎藤貴代美 塩沢 幸恵 金井 秀之
1年:佐々木美枝 山村 聡子
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