私は、この年の冬、昭和57年2月13日に、木島平スキー場で、坂戸市スキー連盟のバッジテストを受けて、SAJ基礎スキー検定1級を取得した。冬になると演劇部を放り出してスキーに打ち込んだ成果を実らせた。 |
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<CAST>長女・真樹子:塩野 好子 次女・由香利:常岡麻愉美 三女・冬美:福田 幸恵 末女・アヤ:松岡 栄子 女医:新井 勝美 看護婦・石川:長谷川和恵 <STAFF>演出・舞台監督:丸山 薫 照明:五十嵐則子・大鶴 勝也・志水佐千子 効果:桜田 孝 舞監助手:小沢美由紀・百木田 薫 |
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前々年度の「楽屋」は、県大会3位。前年度の「恭しき叛逆」は、県大会2位。となれば、いよいよ今年は優勝しかない。優勝をねらえる脚本を選ぶ。審査員に文句を付けられない文学性の高い脚本を選ぶ。この頃の私は、コンクールに勝つことだけを目標にして燃えている若気の至りの舞い上がり顧問でしたから、部員の演技力とか、自分の演出力とか、そんなものお構いなしに、脚本を選んでいました。で、この年、コンクール作品に選んだのは、また、超難しい脚本でした。 |
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<CAST>ベルナルダ:丸山 薫 アデーラ:常岡麻愉美 マルティーリオ:福田 幸恵 ラ・ポンシア:新井 勝美 アメーリア:長谷川和恵 アングスティアス:百木田 薫 マグダレーナ:小沢美由紀 女中:中村みゆき <STAFF>演出:丸山 薫 舞台監督:桜田 孝 照明:大鶴 勝也・志水佐千子 効果:芳沢 洋子 装置:桜田 孝・大鶴 勝也・志水佐千子・芳沢 洋子 <協力>シアター・ジャック |
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*文化祭公演パンフレットから、転載する。 「あらすじ」今世紀初頭のスペイン南部、アンダルシア地方の農村。富裕な農家の女主人ベルナルダ・アルバには、長女アングスティアス・次女マグダレーナ・三女アメーリア・四女マルティーリオ・五女アデーラの結婚前の娘が五人いる。父親が死んで、娘達は厳格な母親ベルナルダの圧制の下に8年間の喪に服さなければならない。「外に出て行きたい!」。白い壁に閉じ込められた若い娘達の情欲がうずまく。そんなおり、莫大な遺産を相続する長女のアングスティアスに村一番の美男と娘達が思慕するペーペ・エル・ロマーノが結婚を申し込む。「姉妹中で一番取柄のない」アングスティアスに「村一番の美男」ペーペ。妹達の羨望と嫉妬が破局への序曲を奏でる。「ペーペはあたしのものよ!」。美しく情熱的な末娘アデーラの狂おしい愛。「あんたの好きなようにはさせないわ!」。マルティーリオの哀しく切ない愛。 白い壁に閉ざされたベルナルダ・アルバの家に、今、悲劇が........。 「作者について」ガルシーア・ロルカは、1898年、スペイン南部アンダルシア地方、ぶどう畑の中に白壁の家々の立つ農村に生まれた。やがてロルカは20世紀前半のスペイン文学を代表する世界的な詩人・劇作家となるのだが、古い吟遊詩人の伝統を受け継ぎ、民衆の心に尽きない霊感の泉をくんだロルカの詩は、その故郷、南スペイン、アンダルシアの風土に固有の、豊かな美しい自然のイメージと繊細でみずみずしい民衆的な感覚とを通じて開花し、いまや人類共通の生の哀歓、普遍的な愛と死の永遠のポエジーを、世界中の人々の心に伝えている。 ロルカは、彼の盛名が世界に広がりつつあった1936年、勃発したスペイン内乱の犠牲者として不慮の死を遂げた。たまたま故郷グラナダに帰ったロルカは、そこでファシストの一隊に捕えられ、早朝自らの墓穴を自らで掘らされたあとで、銃殺された。ファシストによるロルカの虐殺の報は、自由の死の象徴として、世界中の知識人に怒りと悲しみをもたらした。「ベルナルダ・アルバの家」は、作者の死の直前に書かれた遺作であり、作者自身はその舞台を観ることなく死んだ。 |
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*文化祭公演パンフレットからの転載です。 さ・よ・う・な・ら(部長より) 文化祭公演が私は一番好きです。地区大会や、県大会の、一つのミスも許されないといったギンギンの緊張感もたまらなく好きですが、3年生の最後の舞台を観ながら、この芝居にからまる様々なシーンを胸に去来させて、ひつそりと感傷にひたるのが秋らしくて最高です。 「強きを助け、弱きをくじく」という私の劇部指導理念のもとに、よくぞ耐えて、文化祭公演の晴れ舞台を踏んだ3人の3年生に、胸を熱くしています。思えば、3年前には7人の1年生部員がいました。それぞれ個性的で優秀な部員達でした。それだけに、すさまじい葛藤がありました。部長の私が「火に油を注いだ」り、あるいは私そのものが「火種」であったりして、一人やめ、二人やめして、とうとう3人だけが残りました。 残った3人は、バラバラの一匹狼でした。某政党派閥風にいうと、前年のみえ先輩から劇部を引き継いだ保守本流リーダー派閥の優等生かおる、反逆児トコチャン先輩の流れをくみ、昨年暮には非主流派を率いてリーダーかおると激突したワガママゆきえ、半年遅れて入部して裏方での目ざましい働きぶりで頭角をあらわし、持前の強気と口数の多さで、ついには「悲劇のヒロイン」役をもぎ取った傍流派閥高階連合のまゆみの3人でした。7人が3人になる葛藤をくぐり抜けて、彼女達はただ芝居がやりたいという一念だけで残ったのですから、それからの三人は少くも表向きは気持の良い仲でした。劇部というのは、一つの芝居をやり終えるまで半年間チームを組むわけで、芝居をやるような子はクセのあるわがままな子が多いから、いつだって内部抗争が激しいのですが、今年ほどトラブルが少く気持ちよく過したチームはなかったような気がします。 かおるは、「演劇部に入るために、この学校に入学した」と公言した二人目の子であり、3年間県大会の舞台を踏んだ3人目の子です。本流リーダー派閥を運命づけられた優等生には、それなりの悲哀があったようで、同学年部員達には反発されるし、絶対やめるわけがないと思っている私にはモメゴトがある度に「リーダーがだらしないから」とひどくしかられるし、後で聞いて、この芝居に入る前に、部をやめようかと悩んだことがあったそうで、驚いたものです。柄の良さに比べると演技力はもうーつでしたが、今年の大役ベルナルダは迫力でよくこなしたと思います。他のだれを持ってきても、ここまでは出来なかったでしょう。かおるが登場すると舞台に緊張がみなぎるのは役の上とはいえ、役者の功績でもあります。立派に大役の務めを果したことを誇りにして下さい。 まゆみには感動しています。「高校演劇は教育だ」ということを、今年もまたかみしめています。この芝居が、いよいよ本格的な練習に入ろうとする7月下旬、まさにあり得ないことが起り、この芝居を放棄しようかというところまで追いつめられていました。私の構想は崩壊し、私はすっかり弱気になっていました。その時、まゆみが言ったのです。「負けたくない。私がアデーラをやります」。「よし、お前に賭けてみよう」と私は力なく言いました。しかし、夏休みの練習が始まって、奇跡は起りませんでした。夏休み最後の合宿のリハーサルが終っても、まゆみは「悲劇のヒロイン」になりませんでした。忙しい9月に入っても私は練習に出続けました。地区予選落ちだけは避けなければと焦っていました。キツイことをまゆみに言い続けました。先輩達もまゆみにダメを出しました。他の部員たちもまゆみへの不安を表わすようになりました。まゆみは、例の調子でヘラヘラとしていました。しかし、心は泣いているのを私は知っていました。気の強い子でした。自分で引受けた役です。弱音を吐くわけにはいかない、辛い毎日だったと思います。必死で努力しているのが、それを他人に見せないだけに、痛いほど私にはわかりました。この子の強さに劇部は救われました。すべてが終った今、私はまゆみに感動しています。劇の中のアデーラは、自由の世界への夢破れて挫折しました。まゆみは、アデーラになろうと必死に戦い続けて一歩もあとに引きませんでした。そのことで、私は君がとても美しいアデーラであったと断言します。 この芝居をやろうと決めたときから、マルティーリオはゆきえ以外にはないと思っていました。屈折したマルティーリオの心情を一番理解できるのは、ゆきえだと確信していました。しかし、春の公演が終わって、一人、二人とやめていきました。非主流派を率いて、ことあるごとにかおると、そして主流派を支持する部長の私と対立していたゆきえが残るかやめるか、私は黙って見ていました。脚本発表の前に公演参加の意志を決定し、参加を表明したら公演終了まで抜けられないというのが、劇部伝統のルールですから、その数日間ゆきえは葛藤したことでしょう。私はかなり絶望していました。ゆきえが残るとわかったとき意外な気がしたことを憶えています。それからのゆきえは人が変ったように真険でした。脚本の読み込みも鋭く、私の授業中あくびをしているかマンガ本を読んでいるかのゆきえからは想像のできない鋭い解釈が演出の私をもあわてさせるのでした。役の仕上りも一番早く、ゆきえが内心賭けているのがわかりました。きっと、やめずにただ一人残ったことの証しが欲しかったのでしょう。関東大会出場に一番執着していたのが、ゆきえでした。秩父農工の芝居を観て、幕が降りたその時に「負けた」と知ったとき、一番打ちひしがれたのもゆきえでした。私は「負けた」悔しさよりも、こんなに真剣にこの芝居に賭けていたゆきえを見て感動していました。合宿の最後の夜、ゆきえが言いました。「先生はオジンになってしまった。ものわかりのいい先生なんてキライだ。先生は勝手なことを言って怒りまくっていればいいんだ!」。そうか、そうだったのか!ヨシッ、来年はドナリまくってがんばるからな! だからゆきえ、またJACKの照明、二人でやろうな! 「近況報告」 △今年も感動的に走りました。平均1日40分、最高60分、クソ暑さの中で意地を張って走りました。芝居はヘタでも走ることだけはどこにも負けない演劇部であろうと思っています。宇都宮の全国大会で札幌開成高校が「どうしてそんなイイ芝居ができるんですか?」と質問されて、「ただ毎日走っているだけなんです」と答えていた。クソッ!先に言われてしまった! △久し振りに二人も男子部員が入ったので、今年は装置作りに力を入れた。クギ1本ロクに打てぬ女の子ばかりでは装置作りも手抜きになるが、やっぱり裏方は男の子がいい。本校演劇部始って以来の最大規模のセットを作った。芸術的な価値はともかく、その分量には大いに感動していた。「役者のヘタな分だけセットでカバーしてやっから!」と女子部員に威張っていたのだが、宇都宮の全国大会に行ったら、東京の某有名私立高校のセットのメチャメチャスッゴイリアリズムに完璧に負けて、女子部員が「あんなん作ってくれなきゃ全国大会に来れん!」とグズり出して、「る−セイ!芝居はセットじゃねーんダ!グズグズ言わんとオケイコせんかい!」。「グシ、グシ!」。 △今年もキャストの衣裳は自前の手作りです。しかも5人は2着ずつ、アデーラは4着も作りました。徹夜でミシンをかけました。ほんとはもっとギンギンのドレスを着たかったのに、演出がスペインの農村だのリアリズムだのとイイカゲンなことを言うもんだから、押さえかげんに作ったら何だかブリッコブリブリになってしまいました。「アンダッテ、作り直せって?イイ根性してんジャン!その分、宿題免除の証文を全校の先生からもらっといデ!」 △とても難しい芝居で、仕上りが遅く焦ってきた顧問は気に入らない芝居をすると黙ってカンジュースの空きカンを投げつけます。キャストさんはビビッテガンバリます。この緊張感に顧問は感動して益々力一杯空きカンを投げつけます。当たらないように気をつけてはいるのですが、時々手元狂ってキャストさんの顔の前をウナリ飛んでいきます。キャストさんはオケイコ場から空きカンを追放するために三ナイ運動をするのですが、顧問は空きカンがないと演出しないとグズるのです。ある日完成したセットが立ちました。まっ白なセットを背にしたキャストさんに、もう空きカンは飛ばせません。顧問はピンポンボールを投げ始めましたが、その迫力のなさにガッカリしています。 |
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ベルナルダ:丸山 薫 | |
アデーラ:常岡麻愉美 | |
マルティーリオ:福田 幸恵 | |
ラ・ポンシア:新井 勝美 | アメーリア:長谷川和恵 |
アングスティアス:百木田 薫 | 女中:中村みゆき |
<STAFF>舞台監督:桜田 孝 照明:大鶴 勝也・志水佐千子 効果:芳沢 洋子 | |
県大会は、秩父農工:作・別役 実「天神さまのほそみち」の三連覇に終わった。ウチの上演が初日に終わって、二日目に農工の上演があって、我が部員達と息を詰めて観た。寸分の隙なく上演された農工の舞台を見終わったとき、隣の席で、ユキエが声を殺して泣いていた。誰よりも農工へのライバル心をむき出しにしていたユキエが観ても、農工の舞台は抜きんでていた。すでに負けを予感しての悔し涙だった。 |
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<埼玉新聞の劇評(抜粋)> 同校は、高校生にはほとんど上演が不可能と思えるこの劇に、血気盛んに取り組んで、封建遺制に反抗しそして敗れ去る女の心情をよく表現していた。難解きわまる心理劇に挑戦したその勇気は称賛に値するだろう。 筑波大坂戸高は、この膨大な台詞劇を、肉体的な訓練のみならず、キャストの心象にまで踏み込んで形象性豊かな舞台をつくり出していた。台詞の多さに圧倒されて、演技そのものが若干弱くなった点はあったが、最大規模のセット、手作りの衣裳など、同校の演劇にかける熱の高さがそのまま伝わる、目を見張らせる舞台だった。 |
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「アンチゴーヌ」に続いて、「ベルナルダ・アルバの家」という、高校生に上演は不可能だろうと思われる難しい脚本に果敢に挑んで散ったというところである。志は高かったが、私の演出力、部員の演技力、共に脚本の高さにまでは到達できなかった。 リーダーのカオルが体育会的なリーダーシップがあって、この頃から、部の運動部的体質が作られていったような気がする。特に、「劇部の基礎練は、マラソン」という私の方針が確立したのはカオルの功績である。それまでは、マラソンといっても、てんでんばらばらに走っていたものが、カオルが運動部のウォーミング・アップのように、縦隊に整列させて走るようになった。しかも、「ファイト!ハイ!」というようなかけ声も合わせるようになった。グランドでかけ声をかけながら走っていると、とても軟弱な演劇部には見えなかった。 |
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県大会の業者写真。県大会の舞台は広いので、正面のパネルを1枚増やしている。 |
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<部員名簿> 3年:丸山 薫(リーダー)・常岡麻愉美(サブ・リーダー)・福田 幸恵 2年:新井 勝美・長谷川和恵 1年:大鶴 勝也・百木田 薫・桜田 孝・中村みゆき・志水佐千子 ・芳沢 洋子・小沢美由紀 |