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1983(昭和58)年度

 この年、私は40歳、「不惑」どころか、惑いに惑っていた。「戸惑いの午后の惨事」という記念碑的な作品を上演したのも「不惑」の歳のなせることかと、今更ながらに気がついた。


<春季公演>
国坂版・熱海殺人事件
 私は、1975(昭和50)年9月、当時青山にあった「VAN99ホール」において、旗揚げ間もない「つかこうへい事務所」の「熱海殺人事件(部長:坂本長利/刑事:平田満/婦警:井上加奈子/犯人:あがた森男)」を見て以来のつかこうへいファンである。その後、三浦洋一・風間杜夫の部長、加藤健一の金太郎など、今日語り伝えられる「熱殺」の名舞台はほとんど見てきた。この年の春、「国坂版・熱海殺人事件」を上演した。つかさんも、後に黒谷友香など女優に伝兵衛をやらせているが、それより先に、国坂では女優中心に「熱殺」をやった。この頃から、国坂芝居の傾向が変わり始めたといえる。

<CAST> 木村伝兵衛:中村みゆき  熊田留吉:芳沢 洋子
            片桐ハナ子:志水佐千子  大山金太郎:大鶴 勝也

<STAFF> 演出:新井 勝美  舞台監督:桜田 孝  照明:長谷川和恵・松岡 洋和・鳴海 奈々  効果:百木田 薫  会場:飯島  淳・小林 佳子・竹内 雅美・渡辺奈穂美
 みるきは、滑舌の悪さが難点ではあったが、空手で鍛えたシャープな動きと気っぷのよさで、スカッとしたカッコイイ伝兵衛を演じた。
伝兵衛:中村みゆき 熊田留吉:芳沢 洋子
片桐ハナ子:志水佐千子 大山金太郎:大鶴 勝也
STAFF組



 これまでの私は、「アンチゴーヌ」とか「ベルナルダ・アルバの家」とかの格調高い古典的作品でコンクールに勝負してきた。リアリズムの重厚な文学作品で勝とうとしていた。しかし、これには自分の演出力や部員達の理解力の点で限界も感じていた。

 私は、一方で唐十郎の「状況劇場」や鈴木忠志の「早稲田小劇場」などのアングラ演劇や、蜷川幸雄・清水邦夫の演劇や、その後に続くつかこうへいや野田秀樹や鴻上尚史などの小劇場運動にも大きな関心を持って観ていたので、古典から現代演劇への路線変更を考えた。

 この年のコンクールに取り上げたのは、当時売り出し中の若手劇作家で、「秘法零番館」という彼の劇団の公演に私自身も追っかけ的に通っていた竹内銃一郎氏の作品だった。
*文化祭公演パンフレットより転載

「作者・竹内銃一郎氏について」
 1947年生れ。1969年早稲田大学一文中退。1975年劇団斜光社を結成。「少年巨人」「悲惨な戦争」「Z」など9本を上演して、79年末に斜光社を解散。秀抜なナンセンス感覚に支えられたブラック・ユーモアの世界を描き、見えざる権力と果敢に対峙せんとする破壊的な舞台は、硬派の小劇団として注目を集めた。尚、この時まで作者は竹内純一郎と名乗っていた。

 1980年、劇団「秘法零番館」を結成。旗揚げに上演した「あの大鴉、さえも」で、1981年第25回岸田戯曲賞を受賞。新劇団結成を機に、竹内銃一郎と改名。第2回公演「食卓秘法・溶ける魚」を経て、1981年10月に第3回公演「戸惑いの午后の惨事」を上演した。

 最近は、若者のファンが増えて、新劇ジャーナリズムでは、野田秀樹「夢の遊眠社」、北村想「彗星86」とともに、若手人気劇作家御三家と呼ばれている。

<コンクール参加作品>
作・竹内銃一郎「戸惑いの午后の惨事」

<CAST> わたし:桜田 孝  トモダチ:大鶴 勝也
        センム:百木田 薫  ブチョウ:中村みゆき  ジチョウ:芳沢 洋子
        オトコ:松岡 洋和  オンナ:志水佐千子

<STAFF> 演出・舞台監督:新井 勝美  美術:松岡 洋和  照明:鳴海 奈々
         効果:渡辺奈穂美  小道具:小林 佳子
         装置:渡辺奈穂美・竹内 雅美・山崎美津子・飯島 淳

<衣裳製作> 「針手麗羅」(斎藤貴代美・常岡麻愉美・斎藤 美栄・近藤よし子)

<美術協力> 清水 俊行・舟波 明生(マンガ・アニメ研究会)

<協力> シアター・ジャック
*文化祭公演パンフレットより転載

「あらすじ」
 「さあさあお立ちあい ご用とお急ぎのない方は ゆっくりと聞いておいで・・・・」

 わたしは、トモダチにガマの油売りの稽古をつけてもらおうと、この空き地にやってきた。わたしも、そろそろ生業を身につけて、戸惑いの青春に見切りをつけなければならない。すると突然、意味あり気なオトコとオンナが逃込んでくる。それを追って、何とも意味不明のブチョウとジチョウが飛び込んでくる。そればかりか、何とも奇怪至極のセンムが登場し、あわれオトコとオンナは、わたしとトモダチの目の前で・・・・

 「なにもできなかったよ でも‥‥‥おれたちは いや少くともおれは 結局のところあいつらを赦してしまったし あいつらを赦してしまった自分も赦してしまったし だから そのことの責任はとらなきやいけないと思うんだ あいつらが現われてから消えるまでユラエラとまるで半熟の卵の黄味のように 手をこまねいて見ているしかなかった自分を 時の流れに身をまかせて なしくずしにカタユデの卵にはしたくないんだ」

 「待ってるよ・・・・・ おれのもう半分・・・・・ 多分ずっと以前に出会ったまま 今日までおれが忘れてきてしまった男だよきっと」
 わたしは、トモダチに「ガマの油売り」の口上の稽古を付けてもらうためにこの空き地にやってきた。戸惑いの青春に見切りを付けて、生業を身につけねばならない。
 そこに、突然、追われる身のオトコとオンナが逃げ込んでくる。一見、親分の情婦といい仲になってしまった若いヤクザという感じである。
 それを追って、なんとも怪しいブチョウとジチョウが飛び込んでくる。オトコは必死で抵抗する。
 そこに追っ手のボスであるセンムが登場し、たちまちオトコとオンナは、捕らわれてしまう。
 目の前の強者と弱者の闘いを傍観するしかない若者二人。
 隙を突いて逆襲に転じるオトコとオンナ。  弱者の抵抗に不敵な笑みを浮かべて懐柔にかかる三人組。
 決死の覚悟で抵抗するオトコとオンナに対して、強いものに刃向かっても無駄なこととおちょくる3人組。
 オトコは白刃を振るって3人を切り倒したかに見えるが、所詮白刃は「ガマの油売り」のおもちゃの刀。たちまちの内に圧倒的な暴力を行使する3人組にオトコもオンナも倒されてしまう。
 所詮強いものには逆らえぬのだとうそぶくセンム。哀れオトコとオンナは明日なき囚われの身として運び出される。
 「ここで見たことは、しゃべらぬのが身のため」とセンムは、二人の若者を恫喝する。
 戻ってきたブチョウ・ジチョウも加わって恫喝する。  「お前達のいいなりにはならない!」と抵抗のポーズは見せるが・・・・。
 圧倒的な暴力の前に若者達はなすすべなく屈服させられる。  若者達は、「ガマの油売り」の口上を必死で唱える。彼らなりの抵抗の姿である。
 勝ち誇ったように、哀れな若者を脅して3人組は去る。  トモダチは、「俺たちには、どうしようもなかったんだ。忘れようぜ!」と去る。
 「なにもできなかったよ でも‥‥‥おれたちは いや少くともおれは 結局のところあいつらを赦してしまったし あいつらを赦してしまった自分も赦してしまったし だから そのことの責任はとらなきやいけないと思うんだ あいつらが現われてから消えるまでユラエラとまるで半熟の卵の黄味のように 手をこまねいて見ているしかなかった自分を 時の流れに身をまかせて なしくずしにカタユデの卵にはしたくないんだ」

 「待ってるよ・・・・・ おれのもう半分・・・・・ 多分ずっと以前に出会ったまま 今日までおれが忘れてきてしまった男だよきっと」

*ビートルズの「Let it be」が静かに流れる中、一人思いをかみしめるわたしにいつしか降り出した雪が積もっていくラストシーン。
わたし:桜田  孝 トモダチ:大鶴 勝也
センム:百木田 薫
ブチョウ:中村みゆき ジチョウ:芳沢 洋子
オトコ:松岡 洋和 オンナ:志水佐千子



*文化祭公演パンフレットより転載

「近況報告」
△劇部のニューアイドル・ヒロクンが、8月初め、乱闘シーンの稽古中にジチョウの放った必殺ヘッドパッドをくらってリングアウト。涙ながらに激痛を訴えるヒロクンに冷酷無情の顧問は「このナンジャクモノ!」。泣き泣き医者に行ったところ、左手甲骨2本が無惨にも折れていた。それから半月ぐらい左手をつるした「役立たず」、せっかく早いペースで仕上りつつあったのに、ナンジャク・ヒロクンの骨折でペースダウン。しかし、真っ白な包帯を巻いた手で白刃を構えるヒロクンに凄絶なリアリティがあって、あのまま治らない方がカッコイイと秘かに顧問は思うのでした。

△伝統の炎熱マラソン、今年も過激に走りきりました。身体中の水分をしぼり切って走りました。今年は時にタイムレースをまじえ、標準時間までに到着しない脱落者には罰当番もあり、「脱落の王者」なる新語も生まれました。連日30度を超す猛暑の中、ギラギラ光ってまっすぐに延びるアスファルトロードの果てに何を見据えながら、彼らはひたすら走ったのでしょうか。

△今年の装置製作部は、1年女子部員の「おしん」風丁稚奉公でした。鬼の顧問親方にカナズチで指を打たれ、曲尺で頭をはたかれ、「役立たず!」「クニに帰すゾ!」とドナラれながら、「オヤカタ、カンニンナッス」と耐え忍んでいたのでした。しかし、親方もヒロクンの美術の仕上げで出来上ったセットに大いに満足し、丁稚組はクニに帰されずに晴れてスタッフに昇格したのでした。

△センム・ブチョウ・ジチョウ・オンナの衣裳は、今年新結成されたOGによる劇部専属衣裳部サンの製作です。それにしても派手ですねえ!でも好きだナアー、こういうノ。尚、オンナの衣裳は高校演劇としては異例の大サービスだそうで!(何が?)

△今年の裏方1年生女子部員6名、涙、涙の劇部生活でした。親方にドナられ、先輩に叱られ、暗い照明室・効果室でそっと涙をぬぐうのでした。華やかな先輩たちの舞台の裏で毎日々々クラーく紙を切る奴隷の生活に明るい明日は来るのでしょうか。このコたちに華やかなスポットライトのあたる日は来るのでしょうか。君よ、耐えていつの日か、大輪の花と咲けと祈らずにはいられない今日このごろであります。

△ビートルズが聞こえて来ると、ただそれだけで絵になってしまう恐さを充分に知っていながら、やはりビートルズを使ってしまったオジサンを赦して。オジサンはビートルズが聞こえて雪が降っていれば、それで満足なのさ!

△勝美ネエサンは、演出するときはビシビシとコワイのですが、リハーサルの舞監になると、役者よりも先にアガッてしまって、まったくたよりにならないのです。それはもう、並のアガり方じゃなくって、完全にマイアガッテしまって、目もウツロなのです。役者の皆さん、本番では舞監にハゲマシの一言をかけてあげましょう。ドエーッ!




 この芝居は、7年連続8回目の県大会出場は果たしたが、入賞はできなかった。主演のつや(センム)が、無理な稽古がたたったのか、喉をつぶしてしまって、県大会の本番ではほとんど声が出ない状態だった。それと、スピードとテンポを重視するあまり、ただでさえ滑舌の悪い我が役者達の台詞は聞き取りにくいこと甚だしく、小劇場芝居を大ホールで上演する難しさを克服できなかった。それにしても、あまりに飛びすぎていて、既成の高校演劇の枠組みにはまらなかったともいえる。

 コンクールの結果は出なかったが、私はこの芝居は画期的だと思っている。学校劇や生活劇などリアリズム中心の高校演劇の世界に、小劇場系の若者演劇を持ち込み、高校演劇を変革する先駆的な作品になったと思っている。

 この芝居は、オンナを除いてはすべて男の役なのだが、女性上位の我が部では、男優が足りずに、センム・ブチョウ・ジチョウの悪役3人組は女優でやらねばならなかった。この役は、すなわち「どうしようもなく圧倒的な権力の象徴」なわけだから、女優でやるのは無謀といえば無謀なんだが、そこをつやはカラフルな演技力で圧倒的な存在感を表現した。両脇に従うみるきとようこもシャープな動きで好演した。むしろ、脇役であるはずの悪役3人組があまりに派手に目立ってしまったところが、この芝居の主題であるべき青春の無力感を消してしまったともいえる。

 この年に入学したヒロカズは、役者としても劇部初の二枚目男優であったが、それ以上に舞台美術において劇部史上もっとも多彩な才能を発揮した部員である。私は、セット作りの大工の腕には自信を持っていたが、こと絵を描くとなるとまったくダメであった。これ以前のセットはほとんどモノクロであるのは私に美術の腕がなかったからである。ヒロカズは、私の作ったセットを見事に美術的に描いて見せた。これ以後の我が部の舞台美術が見違えるほどの進歩を見せるのはヒロカズの美術の腕である。これ以後、企画・製作:服部 次郎・美術:松岡 洋和で数々の舞台美術の傑作を生み出すことになる。私が、高校演劇の「セットの神様」と豪語していたのは、ひとえにヒロカズのおかげである。

 ところで、コンクール公演では演出・舞台監督を務めて、キャストには入らなかったただ一人の3年生カツミのために劇部初の「引退公演」を文化祭で打った。

<新井勝美引退公演>
作・水川 裕雄 「公園」
<CAST> 女1:新井 勝美  女2:常岡麻愉美(友情出演)  女3:小林 佳子
         声:からきたつやこ

<STAFF> 演出:羽鳥 史朗  舞台監督:桜田 孝  照明:飯島 淳
         効果:竹内 雅美  舞監助手:山崎美津子

*文化祭パンフレットより転載

「作者・水川裕雄氏について」
 主演の新井勝美が出身の川越市立高階中学校演劇部顧問。7年前、県立坂戸高校が上演して高校演劇コンクールの埼玉県代表になり、関東大会でも優勝して神戸市で行われた全国大会に出場した名舞台「日々(にちにち)」の作者。他にも多数の作品を高校演劇に書かれている。

 今回、新井勝美の引退に際して、「白いハイヒールのはける役がやりたい」というただそれだけのタワイノナイ希望のみをお伝えして、「教え子がカワイクないのか」となかばキョーハク的にお願いしてムリヤリ書いていただいた。水川先生が御苦労されたほどには、教え子の勝美や麻愉美は苦労をしないもんだから、先生のイメージ通りに舞台が出来上がったかは、いささか心もとないのだが、新井勝美もたった一人の三年生になりながら、イジケッコとヤクタタズの後輩達をよくここまで引っ張ってきてくれたのだから、芝居の出来には多少目をつぶっていただいて、気持ちよく勝美の引退を祝ってやっていただきたいとお願いするわけでありまして、作者紹介がいつのまにやら、芝居の不出来の自己弁護になってしまうというこの開き直りの「国坂芝居」。なーに、客が入って本ベルが鳴れば、「マカセナサイ!」。勝美も麻愉美もダテに国坂劇部で3年間を過ごしたわけじゃありません。水川先生のお顔に泥を塗るような芝居はしやーしませんゼ!意地と根性の「国坂芝居」をお見せいたしやす、ヘイ!

女1:新井 勝美
女2:常岡麻愉美(友情出演) 女3:小林 佳子

*文化祭パンフレットより転載

△初代「恐怖のヤクタタズ軍団」と名をなした4人組の中でも極め付けのかつみが、ついに一人になりながら曲者ぞろいの劇部のリーダーを立派に務め上げた。ここのところ、優等生タイプが務めてきた名門劇部のリーダーに、お世辞にも優等生とはいいがたいかつみがリーダーになって、しかしそれだからこそうまくいって、問題児ばかりの劇部員を立派に統率した。かつみがいなかったら、あのナンジャクぞろいの1、2年を私は途中で放り出していたに違いない。1年の頃、何一つ役に立つことのなかったかつみが、リーダーになって、合宿所でやはり何もできない1年生に炊事を教え、掃除を指揮してテキパキと気配りをしているのを見ると、「部活も教育」という私の思いを信じることができる。(だから、最近劇部に異常にはびこっている問題児達も、やがて成長して私を感動させると信じていよう)。

△向っ気の強さと、自信のなさが奇妙に入りまじったカワイイコだった。弱さを見せまいと、精一杯ツッパッテいながら、ツッパリ切れない人のよさがカワイかった。人一倍舞台に立つことが好きでいながら、それだけ舞台に立つことが恐くて、開幕の寸前は舞台の袖の暗闇に丸くなって震えているかつみがカワイかった。演技を計算し練習を積み重ねながらコツコツと役を作っていくタイプで、どちらかといえは感覚的なひらめきでスピーディに動き回れる役者の好きな私の演出ではかつみを役者として使い切れなかったが、そのことのためには夜も眠らず(授業で寝て)役作りに悩むひたむきさには感動するものがあった。こういうと本人は「ババア役はきらいだ!」と怒るのだが、昨年の「ベルナルダ・アルバの家」で演じたラ・ポンシア役は、かつみならではの好演であった。「白いハイヒールを履いた若い女の役がやりたい」という悲願を恩師の水川先生にかなえてもらったが、と思ったらユーレイとは、やはり若い女の役にはなりきれなかったネ!

△今年、まゆみねえさんがいてくれて、とても助かりました。かつみ、来年はたのむゼ。お前の代から始まった問題児リーダーの時代にオトシマエをつけるまで、後輩のメンドーを見るんダゼ。(来年は、アタマが痛いゼ!)


<部員名簿> 3年:新井 勝美(リーダー)
          2年:大鶴 勝也(サブ・リーダー)・百木田 薫・桜田 孝・中村みゆき
             ・芳沢 洋子・志水佐千子
          1年:松岡 洋和・飯島 淳・小林 佳子・鳴海 奈々
             ・渡辺奈穂美・竹内 雅美・山崎美津子

(UP:2007.9.9)


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