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1983(昭和58)年度

 この年、私は43歳、中堅教員として学年主任やPTA後援会の幹事など校内の責任ある仕事も増えていたが、まさに演劇部顧問としての絶頂期にあった。

 この年から川越地区春祭は、5月3日・4日というGWのど真ん中をぶち抜く二日興業となり、地元の中高の演劇部員を中心とする観客が朝から長蛇の列を作った。1200定員の坂戸市文化会館大ホールを超満員にして川越地区春祭は大イベントになった。

 我が部は、2年生女子3人しかいない、廃部寸前の弱体ぶりであったが、しかし、この3人がそれぞれ一騎当千の強者であった。シアタージャックの小峯君に大ホール向けの派手なアクションの仮面ライダーものを書いてもらい、地区OBのシアタージャックの若手たちにバックを固めてもらい、STAFFは国坂OGが担当して上演した。二日興業の大トリを飾ったこの出し物は大当たりとなり、国坂の仮面ライダーシリーズは、春祭の名物出し物になった。


<春季公演>
<第7回川越地区春季高校演劇祭上演作品>

国坂版・熱海殺人事件
作・小峯 和浩

<CAST> 近藤:亀谷 薫
         土方:斎藤 弘子
        了子:江崎 波世

        ひろし:松岡 洋和(JACK・国坂OB)
        バイト1:関根 淳志(JACK・城北OB)
        バイト2:奥山 健二(JACK・城北OB)
        バイト3:関 武史(JACK・城北OB)
        仮面ライダー: ?

<STAFF> 演出:松岡 洋和(JACK・国坂OB)
         舞台監督:江崎 波世
         照明:竹内 雅美(国坂OG)
         音響:渡辺奈穂美(国坂OG)
         舞監助手:武笠 留美
         照明助手:嶋田 文子・江野 桂子
         音響助手:山崎 早苗

<協力> シアタージャック

了子:江崎 波世 土方:斎藤 弘子
近藤:亀谷 薫 ひろし:松岡 洋和(JACK・国坂OB)



 我が校は、一学年四学級160名の小規模学校なので、部員が少ないのは毎年の宿命なのだが、この頃から部員が3学年揃わない悪弊が続くようになる。この年も3年生はまったくのゼロで、2年生3名・1年生4名の女子ばかり計7名の弱小ぶりであった。

 「女子ばかり7名の部員で芝居ができるかぁ〜〜〜」と叫びたいところだったが、この前の年に観た劇団「青い鳥」の舞台が私に大きな勇気を与えた。劇団「青い鳥」というのは、木野 花さんを始めとする女優5人が上演台本から演出から出演までのすべてを共同で担当して、舞台上演を続けている劇団である。「作・市堂 令」というのは、カーテンコールで5人の女優が並んで「作・演出 一同礼!」と挨拶するところから来ている。裏方は別にして、表方は5人の女優だけだから、どんなに壮大なストーリー展開でも5人の女優の早変わりの複数役で上演していくという舞台である。これなら女子7名のウチでも上演できると密かに温めていた。

 私も高校演劇の演出として乗りに乗っていた時期だし、裏方はシアタージャックの諸君に大いに協力してもらって、女子7名の演劇部とは思えない壮大な舞台を創ることに挑戦した。

 10年連続11回目の川越地区代表で県大会に出場した。ぼろアパートが暗転で一瞬の内に宮殿になる仕掛けや、ラストシーンで宮殿の壁が上から下へ開いて王子様が降りて来る仕掛けや、審査員に「プロの舞台でもこれだけの装置は滅多にない」と言わしめた壮大なセット、照明・音響・ダンス・衣裳などの国坂劇部が積み上げてきたSTAFF力の総力を結集してスピード感のある華麗な舞台を創り上げた。県大会の幕が下りたときの絶賛のどよめきは最高の手応えを確信したが、審査結果はまたも秩父農高の別役劇に負けて第2位(優秀賞・テレビ埼玉賞)であった。第2位は、埼玉県演劇祭(飯能市市民会館)に高校代表として出演した。

<コンクール参加作品>

せめて青春、闇街道・・・・・

作・市堂 令(劇団「青い鳥」上演台本)より
(台本構成・服部 次郎)

<CAST> 母・まま母・大正刑事:江崎 波世

        考子・片岡刑事・魔法使い:亀谷 薫

        刑事・次女・市川刑事:斉藤 弘子

        哲子・シンデレラ・大河内刑事:武笠 留美

        大家・長女・東刑事:山崎 早苗

<STAFF> 演出:服部 次郎
         舞台監督:江野 桂子
         照明:嶋田 文子

<協力STAFF> 音響:渡辺奈穂美
            美術:松岡 洋和・関根 淳志
            舞監助手:関 武史・奥山 健二・津田 吉徳・角田 勉
            衣裳:斎藤 美栄

<協力> シアタージャック
         演技指導:小峯 和浩
         振付:斎藤貴代美
         メイク:新井 勝美  照明:岡野奈津子
         搬送:木村浩一郎・鈴木まり子
         合宿:中村みゆき・小林 佳子

           
母・まま母・大正刑事:江崎 波世 刑事・次女・市川刑事:斉藤 弘子
考子・片岡刑事・魔法使い:亀谷 薫
哲子・シンデレラ・大河内刑事:武笠 留美 大家・長女・東刑事:山崎 早苗



[作品解説・あらすじ・演出ノート]          顧問・服部 次郎

 女優・木野 花をはじめとする女性ばかりの人気劇団「青い鳥」の代表作。初演は1982年だが、本校の上演台本は、1985年6月のパルコ・パートVでの再演によるものである。作者・市堂 令とは「青い鳥」の中心女優5名の協同作業を表す象徴的名称で、5人の女優が稽古の現場で即興的にセリフを出し合いながら台本を作っていくことでも有名である。

 この作品は、突然いなくなった哲子を捜す幼友達考子のイメージの世界の展開であるが、舞台は「ぬか床の釘」「置き忘れた片方の靴」をキーワードとして、哲子の部屋からシンデレラの部屋へ、そして刑事の部屋へと時空間をスリップしながら、再び哲子の部屋へと還っていく。

 アパートの部屋から「居なくなった」哲子を捜して時空間をスリップした考子は、そこで「何者かを待ち続ける」シンデレラに出会う。それは「捜される」のを待っていて哲子にとてもよく似ているが、哲子のようでもない。次に迷い込んだ刑事の部屋では、片岡(考子)刑事そのものが犯人とされ責められる。「あんたは一体誰なんだ!」「私は私です。決まってます!」「決まってない!」。

 片岡刑事は「私は一体何者なのか?」という混迷の中で遠い記憶を甦らせ、魔法使いとしてシンデレラに悲しい真実を知らせる。「待っていても誰も迎えに来ない」。真実を知ったシンデレラは、「もう、チャンスを眺めて暮らすのは、うんざり」と決意して、魔法使いと共に大魔王様の仕掛けた罠に敢然と挑戦していく。

 12時の鐘が鳴り、何もかもが元通りになって、哲子はアパートの部屋でいつものようにヌカミソを漬け、日記を書き続ける。「、、、、生存の永遠の砂時計は、繰り返し回転されるだろう、、、」。ニーチェの「永遠回帰」の思想に導かれつつ日記の世界に没入していく哲子は、今日もまた「何者かを待ち続ける」のであった。

 ここで語られるのは「私探し」であり「アイデンティティの確立」である。そして「ピーターパン・シンドローム」「シンデレラ・コンプレックス」などの「モラトリアム」をあらわす現代用語がキーワードとして有効であろう。このような芝居を楽しむためには、劇構造の整合性など問題にはならない。時空間を自由気ままにスリップしていく感性の飛翔を容認することが必要であろう。「私を探してください!」。筑坂劇部がお贈りするシンデレラ・メッセージをどうぞお楽しみ下さい。



 幕開き。いなくなった哲子の部屋。考子は刑事と大家さんと共に哲子の失踪の原因を探す。
 考子は、哲子の日記を読んでいる内に時空間をスリップする。
 哲子のぼろアパートが暗転の一瞬の内にヒロカズ画伯の描く抽象画の異空間に転換するところが「セットの神様」の渾身の力作である。
 考子は、そこで哲子によく似た「何者かを待ち続ける」シンデレラに出会う。再びスリップして・・・、
 そこは犯人を捜す刑事部屋。片岡刑事(考子)は責められる。「あんたは、一体誰なんだ?」「私は私です。決まってます!」「決まってない!!!」
 時空間をスリップするときにダンス・シーンが入る。当時の高校演劇には珍しかったストロボ照明が効果的に使われた。
 再び哲子の部屋。買い物から帰ってきた哲子は部屋の異変に気付き、大家さんを探しに出て行く。  哲子が出て行ったあとに、考子も戻ってきて、「ぬか床の釘」を手にする。
 再び、シンデレラの家。まま母、長女、次女がシンデレラをいじめるシーン。凄い迫力があった(-_-)
 再び、刑事部屋。  現場に残された片方の靴が証拠の品。これをぴったり履ける者が犯人だ!
 考子の足にぴったり!「おまえが犯人だー!」  「違うというなら、これで白状させてやる!」
 留置場に入れられた考子の前に、考子の大好物のスパゲティ・ナポリタンが山と盛られる。
 普通の高校演劇では、食事のシーンは「食べてるつもり」のパントマイムだが、山と盛られた本物のスパゲティを4人でガァーと食べるシーンは凄い迫力があって大受けだった。但し、食べ頃の時間に合わせて、これだけのスパゲティを用意するSTAFFの苦労は大変であった。
 遠い記憶の中で、魔法使いの考子は、シンデレラの哲子に真実を教える。「待っていても、誰も迎えに来ない!」  「もう、チャンスを眺めて暮らすのはうんざり!」。哲子は考子と共に大魔王の罠に敢然と挑戦していく。
 闘い済んで、再び、哲子の部屋。  一人になった哲子は日記を書き続ける。「生存の永遠の砂時計は、繰り返し回転されるだろう。・・・・、。すると辺りは闇に包まれ、
 轟音と共に、異空間の壁が上から下に開き、そこには従者を従えた光り輝く王子様が・・・。
 ラストの仕掛けもここに極まれりというところ。セットの真ん中が上から下へ、しかもゆっくりと降りてくる。そのスロープを従者が降りてくる。県大会の審査員が「プロの劇団でもこれほどのものは少ない」と言ったほど凄いセットである。「セットの神様」の最高傑作と言ってよい。
 しかし、コンパネで作られた重たいパネルをゆっくりと下げるというのは大変なことである。一流劇場なら電動でやるだろうが、高校演劇では滑車とロープを人力で操作する。これを裏で操作してくれたシアタージャックや地区OBの若者達に感謝しなければならない。どれだけ、大変だったことか。
 従者がスロープを降りてきて、哲子に手を掛けると一瞬の内にシンデレラに替わる。(「引き抜き」という手法で、上に羽織っていた哲子の普段着がはずれて、下に着ていたドレス姿になる)  哲子は、今日もまた、シンデレラになって「何者かを待ち続ける」のであった。
一同、礼!



以下は、県大会での業者写真である。セットは大ホール用に両脇をパネル1枚追加した。
埼玉新聞の劇評
<文化祭パンフレットより>

[例によって近況報告]
☆一日平均5kmの炎熱マラソン30日、今年も貫徹しました。走ることだけは県下の演劇部のどこにも負けないつもりでいます。伝統は重い、走ることは辛い、しかしこれが潰れたとき筑坂劇部の崩壊の日だと思っています。(ちなみに今年の記録会の優勝は久しぶりに顧問でした。)

☆「リンデン」という高校生向けの雑誌の取材を受けて、同誌18号に本校演劇部が紹介されました。大教室に貼ってありますのでお読み下さい。

☆8月中旬、劇部唯一の夏休みとして部員共々秩父の民宿に一泊し、秩父農工演劇部の稽古を見学させていただきました。若林先生の緻密で繊細な演出ぶりに再び感心させられましたが、一方で「若林演出の秩農芝居」と「服部演出の筑坂芝居」の違いを明確に意識し、新たな闘志を燃やしたのでした。ところが、帰ってくるとうちの部員どもが妙に怠慢になって、若林先生のような手取り足取りの親切・丁寧な演技指導を期待しやがって、「甘ったれんじゃねえ!筑坂の役者はテメェで演技を創るんだ!」とワガママ顧問は怒鳴り散らしていたのです。

☆今年の目玉は、自称「セットの神様」の作ったセットです。これだけは高校演劇の水準を超えていると自画自賛しています。それだけに落し穴もいっばい有りそうです。裏方さん、お願い、うまくやって!

☆今年も、たくさんの先輩達に助けて貰いました。これが筑坂劇部の財産です。後援会並びにJACKの先輩達、あなた達に向けて今年も筑坂芝居の幕を開けます。やり残したことはありません。
 さあ、本番・・・・イクゼ!コクサカ、ファイト!!
                                (地区大会パンフレットより転載)

[県大会報告]
☆ライバル秩父農工高の出来は、いつもながらのスキのない完璧なものでした。若林先生の職人芸的演出から生まれる計算しつくされた舞台は、確かに正確無比に破綻無く一つの世界を構築していきます。別役 実という当代一の劇作家の脚本を、真面目に正攻法に執拗に練り上げていく若林先生と秩農部員の努力に敬意を表し、その優勝にケチをつけるつもりはありませんが、しかし私は観ながら途中で眠ってしまいました。私にはこういう自閉症的な針の穴を突っつくような静的な微細な演出は出来ません。芝居は「見せ物」であり、創る側と観る側との点の取り合いという意味でスポーツであり、が、このスポーツは常に創る側が勝たねばならず、だから創る側は観る側に何かしらの「驚き」を与えねばならないというのが私の演出の立場であり、その意味で秩農の完成された別役劇はもはや私に何の驚きも与えず、ただ眠気を催させるだけでした。

☆本校の「シンデレラ」の幕が降りたときの「ウォー!!」という客席のどよめきを聞きながらニンマリして「勝ったね!」と思っていました.むろんお客に勝ったということで、コンクールに勝つか負けるかは、この頃出来るだけ考えないようにしているのです。結果は第2位でした。「やっばりな一!」と皆思いました。それは敗北感ではなく、高校演劇界の現状とそこにおける国坂芝居の位置を冷静に捉えていて、[正攻法の演出・正確な発声と基本に忠実な演技・地味で堅実な舞台の秩父農工高]と[奇をてらった演出・根性だけの発声と力まかせの演技・目一杯派手な舞台の筑波大坂戸高]というここ数年の県大会に定着した構図から、[審査員のお気に入りの秩父農工高]と[高校生の喜ぶ筑波大坂戸高]という結果はごく当たり前に予想できることだったからです。

☆そこまで分かっているならば、審査員に気に入られるような芝居をやれば良いのですが、そういうわけにもいかないのです。一つの芝居を創るのに半年位もかけるのですから、自分達の性格に合わないことをやろうとしても必ずボロが出るでしょう。何しろ顧問は「派手好きの勝負好きの目立ちたがり」、部員ときたら「ベツヤクミノルって、それ何?ってなアッパラパー」だから、固い芝居をシンネリムッツリ半年も稽古するなんて苦行はとても出来そうにありません。これからも国坂は国坂らしい派手な芝居で勝負します。いろんな意味で実力がついてきたし、今年の結果も審査員にまだ本校を選ぶ決断がつかなかったというだけで、芝居の質そのものは秩父農工高に一歩も引けを取らなかっただけでなく、挑戦的・冒険的な若者芝居の先進性においては、はるかに本校が上であったと自負しています。

☆大きな舞台になるほど良い芝居をするという国坂劇部の誇るべき伝統は、今年も健在でした。本番数分前にキャスト・スタッフが円陣を組んで「コクサカ、ファイト!」をやるのですが、まなじりを決したリーダーのナミヨが「国坂の伝統は、私達が守るッ!」と叫んだのが感動でした。国坂劇部始まって以来の3年生の居ない弱体チームを率いて、連続出場の伝統を守らなければならないプレッシャーと闘いながら苦労してきた泣き虫リーダーのナミヨが、県大会の本番を前にしてとても頼もしいリーダーになっていました。そして、躁鬱病気味で、具合の悪いときは顧問も手を焼くトンデモナイヤツになってしまうが、舞台では一番の演技力でいつも審査員にほめられるエースのカオル。それから、授業態度がトンデモナク悪くてほとんどの先生に大顰蹙を買っているが、放課後の大教室では信じられないほど素直な努力家で建設的な意見を述べるヒロコ。それぞれ学校生活ではどちらかと言えば問題児ですが、劇部では本当に良く頑張りました。顧問として願わくば「演劇学校じゃないんだから、演劇部さえやってりゃいいってもんじゃないだろ!」という大方の先生方の声をもう少し謙虚に聞いて頂きたいと思っております。そして、伝統を守らねばと必死になっている2年生に圧倒されて、まだ個性を発揮するまでに至ってない1年生も今となってみれば良く頑張ったと思います。顧問としては、1年生には厳しく当たって今後の覚悟をしてもらいたいという教育方針で、優しい言葉もかけてやれないのですが、君達が辛かったろうことは良く知っています。しかし、それは今の2年生も同じ事です。この辛さで挫けずにいつか舞台の華になる日を夢見て劇部を続けていって欲しいと思っています。

☆秩農の若林先生に祝福の握手を送りながら「来年は勝つゼ!」と言ってしまった。(・・・マ、イイカ!)

<部員名簿> 3年:
          2年:江崎 波世(リーダー)・斎藤 弘子(サブ・リーダー)
             ・亀谷 薫
          1年:武笠 留美・山崎 早苗・嶋田 文子・江野 桂子

(UP:2012.9.6)


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